大牟田には、巨大な大蛇を倒したカニの伝説があります。

……いきなり何の話だ、と思うかもしれません。

でもこれは、大牟田の三池地区に伝わる昔話。しかも物語をたどっていくと、私たちが何気なく使っている「三池」という名前にまでつながっていきます。

今回から始める「大牟田むかしばなし。」第1話は、三池山に残る「ツガニの恩返し」です。

ここからは、地域の伝承をもとにした読み物です。会話・心情・擬音は物語として再構成しています。登場人物や大蛇との戦い、地名・池の由来は、史実として確認された出来事ではありません。

むかし、三池に「玉姫」という娘がいた

むかし、三池の里を「三毛の里」と呼んでいた頃のこと。

山の麓に長者の家があり、そこには「玉姫」という気立ての優しい娘が暮らしていたといいます。

ある日、玉姫は石の下敷きになり、苦しんでいる一匹のツガニを見つけました。かわいそうに思った玉姫はツガニを助け、家へ連れて帰って手当てをします。

やがて元気を取り戻したツガニ。それから玉姫とツガニは、庭の池で仲良く過ごすようになりました。

ところが3年ほど経ったある日。大きく成長したツガニは、突然姿を消してしまいます。

玉姫は寂しく思いながらも、そのまま月日は流れていきました。

このとき玉姫はまだ知りません。自分が助けた小さな命が、のちに自分の命を救うことになるとは。

村に伝わる、恐ろしい「白羽の矢」

一方、この村には恐ろしい言い伝えがありました。

夏になると、村のどこかの家の屋根に「白羽の矢」が立つ。その家の若い娘を、山奥に住む巨大な大蛇へ差し出さなければならない。

逆らえば、村全体に災いが起きる――。

そんな言い伝えです。夏が来るたび、村人たちは「今年はどこの家なのか」と恐れていたといいます。

そして、とうとうその日がやってきました。

白羽の矢が立ったのは、
玉姫の家でした。

「村のためなら」

玉姫は覚悟を決めます。自分ひとりの命で村が救われるのなら、と。

玉姫はかごに乗り、山の頂へ向かいました。そして、ひとり大蛇を待ちます。

しばらくすると――

ドロドロ、ドロドロ……。

山の奥から異様な音が聞こえてきました。巨大な大蛇が姿を現したのです。

山で巨大な大蛇と向き合う玉姫を描いた伝承のイラスト
玉姫と大蛇。伝承をもとにしたイメージイラストです。

逃げ場はありません。大蛇が玉姫へ迫ります。

「もう、これでおしまいか」

そう思った、その瞬間でした。

ガシャガシャガシャッ。

遠くから、勇ましい音が聞こえてきます。

現れたのは武士でもなければ、神様でもない。

巨大な――
「ツガニ」でした。

かつて玉姫が助けた、あのツガニです。

大きなハサミを掲げ、玉姫を助けに現れた巨大なツガニのイラスト
恩返しに現れた巨大なツガニ。伝承をもとにしたイメージイラストです。

ツガニは大きなハサミを振り上げ、大蛇に立ち向かいました。

大蛇とツガニ。山を揺るがすような戦いの末、ツガニのハサミが大蛇の体を切り分けます。

頭、胴、尾。大蛇は三つに分かれ、苦しみながら激しく暴れたといいます。

巨大なツガニがハサミで大蛇に挑む戦いを描いたイラスト
ツガニと大蛇の戦い。実際の出来事を記録・再現した画像ではありません。

大蛇が暴れた跡に「三つの池」ができた

大蛇との戦いが終わり、心配した村人たちが山へ向かいました。

そこで人々が目にしたのは、力尽きたツガニと、満々と水をたたえた三つの池でした。

伝承では、大蛇が苦しみながら暴れたことで地面に三つの大きなくぼみができ、そこから湧き水が出て池になったとされています。

一方、大牟田市の自然環境調査報告書では、大蛇の血が三つの池になったという語りが紹介されています。池の成り立ちにも、伝え方の違いがあります。

この「三つの池」が、「三池」という名につながった――。そんな地名の由来を語る伝説です。

伝承に登場する三つの池を、山あいに広がる水面として描いたイラスト
物語の「三つの池」を描いたイメージです。実際の三池山の池の形・大きさ・配置を示すものではありません。

大牟田市公式観光サイトでも、三池宮の東側にある三つの池と、大蛇をカニが三つに切ったという伝説が紹介されています。池が現在あることと、池のできた理由を語る伝承は、分けて受け止めたいところです。

ところが、玉姫がいない。

物語には、もうひとつ不思議な続きがあります。

村人たちはツガニの亡骸を見つけ、丁重に葬りました。

しかし――玉姫の姿が、どこにもありません。

そこで人々は考えたといいます。玉姫は龍神となり、この土地を見守り続けているのではないか、と。

伝承では、三池山の三つの池は日照りが続いても水が枯れず、村人たちは玉姫を救ったツガニへの感謝から、ツガニを食べないとも語られています。

何気なく呼んでいる「三池」の、その奥に

大牟田に暮らしていると、「三池」という二文字はあまりにも身近です。

三池山。
三池港。
三池炭鉱。
三池という土地の名前。

けれど、その名前の奥をのぞいてみると、心優しい玉姫と、恐ろしい大蛇と、恩返しのため命をかけた一匹のカニ。そんな壮大な昔話が眠っていました。

史実として証明された出来事ではありません。地名の由来についても、これは地域に伝わる「伝説」のひとつです。

それでも、長く人から人へ語り継がれてきた物語には、その土地の人々が大切にしてきた何かが残っています。

知っている町も、昔話をひとつ知るだけで、少し違って見えてくる。

大牟田には、まだまだそんな物語があります。

「大牟田むかしばなし。」
次回へ、つづく。

出典と、この昔話の読み方

本記事は三池に伝わる昔話を、小噺風の読み物として再構成しています。伝承には複数の語り方があり、登場人物の実在や出来事の発生、地名の成立を歴史的事実として証明するものではありません。

出典の確認範囲
下記の公式資料で確認したのは、玉姫(姫)を襲う大蛇、カニによる退治、三つの池と地名の由来を結ぶ伝承の骨格です。ツガニを助ける場面、3年という期間、白羽の矢、玉姫が龍神になる結末などの細部は、制作済み原稿の再話表現を残しています。今回参照した公式資料では、これらの細部までは確認できていません。

画像は「大牟田むかしばなし。」のために制作したイメージイラストです。実在の人物・風景や、歴史上の出来事を再現したものではありません。

情報確認日:2026年9月21日。

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